技術概要
光硬化(UV架橋)可能で耐熱性のあるこのスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体システムはホットメルトSISシステムが持つ粘着性の強さと溶剤ベースのSISゴムシステムが持つ耐熱性の強さの両方を兼ね備えた材料です。粘着性は優れているが耐熱性が低いために使えなかったホットメルトSISですが、日本ゼオンが開発したこの架橋SISであれば溶剤ベースのSISシステムやホットメルトアクリルの代わりに使える可能性があると考えています。アクリル系粘着剤と同等の耐熱性、より優れた接着強度を有するので自動車用途(内装部品の固定など)や建材用途への適用が想定されます。
架橋SIS技術は、SISのシンプルで低エネルギー加工性、低VOCレベル、粘着性、機械的特性を維持しつつ、耐熱性、耐久性を向上させています。
主な特徴とメリット
- 粘・接着剤用途に適した剥離&粘着性能
- せん断破壊温度試験(SAFT)で示された耐熱性は120~150°C(光硬化のレベルによる)です。なお、典型的なSIS素材の耐熱性は80~100°Cしかありません。
- 低エネルギー、低粘度のホットメルト加工が可能
- 溶剤ベースのシステムと比較して、粘・接着剤用途でより迅速で効率的な処理や生産が可能
- 特に溶剤ベースのSISゴムシステムと比較してVOCレベルが低い
架橋SISの比較
架橋SISは、典型的なSISホットメルト素材よりも機能性が向上しています。架橋SISは室温ではSISと同等の保持力を示し、高温ではホットメルトSISやホットメルトアクリルよりも優れた保持力を示します。
上のレーダーチャートの黄色の部分は、ホットメルトSISやホットメルトアクリル素材と比較した際の架橋SIS技術の主な差別化特性になります。
開発段階
ゼオンの架橋SIS素材は現在、製品開発の最終段階にあります。各方面のユーザー様に広くご使用いただけるよう要求仕様と適合性について検討したいと考えております。さまざまな用途における新素材をご検討中のお客様からのご連絡(サンプル評価希望など)をお待ちしております。
技術詳細
「架橋 SIS」は、特有の星型のSIS分子構造により実現でき、スチレンの含有量を変化させることで接着性能を意図的に変化させることができます。
ゼオンはこの架橋 SISの上市前のバージョンを2種類開発しました。QTC SL-177 と QTC SL-209 です。この技術資料ではゼオンの標準ホットメルト SIS 製品である Quintac 3421 と、溶剤処理された高分子量 (Mw = 106) SIS ゴム接着剤 (既存製品) を比較基準として使用しています。
ゼオンの架橋 SISは、使用するC5型樹脂の構造以外は、標準的なホットメルトSIS(Quintac 3421)のフォーミュレーションと同じです。
接着試験に使用される架橋SIS製剤の成分としては以下のものが挙げられます。SISブロック共重合体、C5型樹脂、ナフテン油、架橋促進剤(TMPTA)。光開始剤(Irgacure 651)、酸化防止剤(Irganox 1010/Irgafos168)[図1]。
求めている協業の種類
お取引としては適切なSISとC5の樹脂成分をゼオンから供給し、お客様にて配合・加工を行っていただくことを想定しています。[図2]
ゼオン社によるせん断破壊温度(SAFT)、剥離接着(Peel adhesion)、ループタック(Loop tack)、の試験データを図3に示します。架橋SIS(QTC SL-177、SL-209)は、溶剤ベースの高分子量SISゴム接着剤システム(既存製品)と同等の接着特性を示し、ほとんどの条件で一般的なホットメルトSIS(QTC 3421)を凌駕する接着特性を示します。
せん断接着性の点で耐熱性が向上した(SAFT試験)ことに加え、典型的なSISと比較して架橋 SISの貯蔵弾性率(G’は伸長/せん断に対する抵抗性を示す)は高温(120℃+)でも保存されます。
架橋SISは硬化前の処理温度範囲において、溶剤ベースのSISゴム接着剤システムに比べて大幅に低い粘度を示し、処理速度と必要なエネルギーの点で効率的な処理が可能です[図4]。また、ゼオンの架橋SISはホットメルト加工においても望ましい熱安定性を示しています[図5]。